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東京高等裁判所 平成3年(う)267号 判決 1991年11月18日

本店所在地

埼玉県大宮市高鼻町一丁目四九番地

明和地所建設株式会社

右代表者代表取締役

石関美智子

本籍

同市三橋六丁目一五九三番地の六

住居

同県与野市大戸六丁目一二番四号 石関智恵子方

不動産会社経営

石関建治

昭和一八年六月二日生

本籍

浦和市本太五丁目四〇番地

住居

同市大字大谷口一六二九番地 浅野裕美子方

会社員

恒川清

昭和八年三月一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成三年一月二五日浦和地方裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官樋田誠出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人嶋田雅弘、同野田宗典連名の控訴趣意書(但し、本文中第一の一及び第三の一は撤回)に、これに対する答弁は、検察官樋田誠名義の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用するが、各論旨は、要するに、被告人らに対する原判決の量刑は重きに過ぎる、殊に、諸般の情状を考慮すると、被告人石関建治(以下「被告人石関」という。)及び同恒川清(以下「被告人恒川」という。)に実刑を言い渡したのは不当である、というのである。

そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討すると、本件は、被告人明和地所建設株式会社(以下「被告会社」という。)の代表取締役であった被告人石関とその友人の被告人恒川とが共謀の上、被告会社の業務に関し、その昭和六一年六月一日から同六二年五月三一日までの事業年度における法人税を逋脱しようと企て、被告会社所有の大宮市土手町所在の土地(以下「土手町物件」という。)の売却に際し、その売買が実際は被告会社と銀二土地株式会社との間で行われるものであるのに、両者の中間に被告人恒川が以前出入りしていた茅部商事株式会社をダミーとして介在させ、また、被告会社所有の同市宮町所在の土地及びその地上建物(以下「宮町物件」という。)の売却に際し、その売買が実際は被告会社と日特不動産株式会社との間で行われるものであるのに、両社の中間に被告人恒川が昭和六一年一一月設立した株式会社茅部商事をダミーとして介在させ、これによって、右二物件の取引に係る被告会社の売上合計一五億一〇〇〇万円余を圧縮するなどの所得秘匿工作を行った上、虚偽・過少の法人税確定申告書を所轄税務署長に提出し、正規の法人税額一〇億五三〇七万円一七〇〇円と申告法人税額一億九二四八万七一〇〇円との差額八億六〇五八万四六〇〇円を免れたというものであって、右のとおり、逋脱した法人税の額が多額で、その逋脱率も約八二パーセントと高率であること、所得隠蔽の方法も、前叙のとおり、被告人恒川の関係する会社をいわゆるダミーとして介在させることにより被告会社の売却代金を実際よりも低く見せかけるとともに、形式上右各不動産の売主となったダミー会社に課せられる法人税については、支払い能力がないとして事実上支払わないことにより、脱税の利益を確保しようと企てたものであって、その所得の隠蔽、脱税の利益確保の方法が巧妙であること、被告人らは土手町物件の売上から一〇億二〇〇〇万円、宮町物件の売上から四億九〇八三万円の口径一五億一〇八三万円を除外し、これから簿外の経費当を除いた一三億七〇〇〇万円余を被告会社の公表経理から切り離し、裏金としたものであることに照らすと、本件はかなり重大かつ悪質な脱税事犯と認められ、被告会社は相応の刑責を免れないものといわなければならない。

そこで、進んで被告人石関の情状ないし責任について考えると、右に指摘した諸点に加え、同被告人は、<1>被告会社のいわゆるオーナー経営者で、本件脱税を行うか否かを何人からのう掣肘も受けることなく自由に決定できる立場にあった者であるところ、当時多額の負債に苦しんでいた被告人恒川からの懇請もあったにせよ、自らの決断により本件脱税を行ったものであること、<2>折りから地価高騰により、前記各物件の売却から思わぬ多額の利益が見込まれることとなるや、この益を納税することなく手元に留保しようと考え、併せて、土手町物件の売買価格についての国土利用計画法上の制約を潜脱するとの不法目的の達成も兼ね、同被告人の関係会社をダミーとして介在させる前記の方法により本件脱税に及んだものであって、その動機には格別酌むべきものはないこと、<3>脱税により手元に留保した利益の使途にしても、脱税の分け前ないし報酬、前記ダミー会社の納税資金、貸付等の名目で同被告人に約七億三〇〇〇万円余を支払い、その余は、脱税利益隠蔽の意図でおよそ四億円を香港に持ち出して不動産の購入等に充て、およそ九〇〇〇万円程度を競馬や海外での遊興等に費消したなどというものであること、<4>昭和六二年一二月一日売春防止法違反(管理売春業者への資金提供)罪により懲役一年(三年間執行猶予)及び罰金三〇万円の判決を受けているほか、道路交通法違反の罪等による前科をも有することなどに照らすと、犯情は不良で、被告人石関の刑事責任は重いといわなければならない。

次に、被告人恒川の情状ないし責任について考えると、先に指摘した諸点に加え、同被告人は、<1>借金の返済に窮した挙句、被告人石関に対し、自己の関与する各会社をダミーとする前記方法による脱税を慫慂し、ダミー会社名義による一部納税等の仮装隠蔽工作を引き受けるなどとして、同被告人に本件脱税を決意させたもので、本件脱税事犯において果たした役割は同被告人に劣らないものであること、<2>本件脱税による利益中から、その分け前ないし報酬、ダミー会社名義の仮装の所得に課せられる法人税等の納税資金あるいは仮受金等の名目で総計七億三〇〇〇万円を超える金員を取得していること、<3>右取得金員の約一割は後日株式会社茅部商事が更正決定を受けた正規の法人税等の納税に充てられているものの、その大部分を、ダミーとして利用した茅部商事株式会社の経営者柴田喜一に対する脱税協力金の支払い、自己の借財の返済、競馬への浪費等に充てていること、<4>被告会社につき強制調査が開始された直後、一旦事実を認めた被告人石関に働きかけて否認に転じさせるなど、調査に非協力的な態度に出ていること、<5>昭和五二年八月二九日浦和地方裁判所において詐欺罪及び業務上横領罪により懲役三年に処せられ、服役した前科を有することなどの諸点を併せ考慮すると、犯情は甚だしく不良であって、その責任を厳しく咎められてもやむを得ないところである。

してみると

(1)  被告会社は、<1>昭和四五年の設立以来、その営業活動を通じてそれなりに地域社会に貢献してきたものであるところ、同五〇年代後半以降の不動産不況により、金融機関の信用を維持するための粉飾決算や人員削減のやむなきに至るなど苦しみを嘗めており、好況に恵まれた当期において、偶々二物件の取引で獲得した望外の利益を温存し、将来の不況に備えたい気持ちに駆られたものであること、<2>原審段階において本税の大部分を納付している上、引き続き納付に努力し、当審において本税一二億〇〇五七万二五〇〇円を完納するに至っていること、<3>国税局出身の税理士を顧問に迎え、税務申告に過誤のないことを期する態勢を整えていること、

(2)  被告人石関は、<1>日頃から親交のある被告人恒川から暴力団による借金の取立てに悩まされている窮状を訴えられ、同被告人を助けてやりたいとの気持ちも働いていたこと、<2>勾留七日目以降は、事実を率直に認めて捜査に協力しているほか、本件犯行及びその当時の生活態度についても深く反省するに至っていること、<3>地元住民の要望により、被告会社においてマンション建設用地として購入した土地を公共の用途に供するため採算を度外視して大宮市土地開発公社に売却し、地域社会に貢献していること、<4>被告会社名義で社会福祉法人埼玉県共同募金会に対し三〇〇〇万円の贖罪寄付をしていること、<5>被告人石関の存在は被告会社並びに妻美智子と二人の子供及び内妻平山こと石関智恵子と二人の子供にとって重要であること、

(3)  被告人恒川は、<1>本件当時、暴力団からの借金取立てを受け、切羽詰まった状況に追い込まれていたこと、<2>勾留七日目以降は事実を認め、本件犯行及び当時の生活態度について反省の態度を示していること、<3>株式会社茅部商事の昭和六二年七月期から平成元年七月期までの法人税、法人事業税、法人県民税等を完納していること、<4>家族、友人から減刑嘆願書が寄せられていること、

その他、原審記録及び当審における事実取調べの結果に現れた被告会社及び被告人両名のために酌むべき諸事情を十分考慮しても、原判決が被告会社を罰金一億七〇〇〇万円に、被告人両名を各懲役二年に、それぞれ処することとした量刑はいずれも相当であって、これが重過ぎて不当であるものとは認められない。

ところで、所論は、被告人石関と同恒川とは趣味の競馬等を通じ、親子にも似た親密な間柄であり、被告人石関としては、同恒川の窮状を知悉し、かねがね同被告人に儲けさせてやりたいと考えてきたところ、偶々本件二物件の売却の話が纏まった機会に、その売却益を同被告人に分配してやることを考え、同被告人もこれを了解していたのであって、それ故にこそ約七億三〇〇〇万円もの利益の移転が実現したのであり、本件の動機として、被告人両名の間には茅部商事株式会社及び株式会社茅部商事の関与した本件各取引は正規の取引であるとの思いが根底にあったことを十分斟酌されたいというのである。確かに、本件二取引にダミー会社を関与させたことにより除外された被告会社の利益一三億七〇〇〇万円余のうち、種々の名目で約七億三〇〇〇万円が被告人恒川に移転されているのは、単なる脱税協力金としては異例の高額であり、そのようなことが実現したのは、被告人両名の間に所論のような親密な関係があり、被告人石関が同恒川に利益の一部を分配してやるという心情が働いた結果であるとみられなくはない。しかし、たとえそうであったとしても、その手段として茅部商事株式会社等を関与させて行われた本件各取引が一見して明白なダミー利用による仮装行為であることは、所論も認めるところであり、その当事者である被告人両名も当然これを知悉していたとが明らかである。本件各取引による売却益は総て一旦被告会社に帰属した後、被告人恒川に移転されているのであるから、その実態は、所詮被告人両名の共謀により取得した脱税利益を共犯者間で分け合ったということに過ぎず、被告人両名の取り分がそれぞれの刑責を決する上でも斟酌されるべきであるという以上の意味を有しない。そして、原判決の量刑は被告人両名の刑責に応じて適正になされているものと認められるから、所論は結局理由がない。

次に、所論は、本件犯行当時の直接税の税率が高過ぎるとの国民の批判に対応して、その後二回に亘り、法人税の税率が引き下げられていることを量刑上斟酌すべきであると主張するが、昭和六三年法律第一〇九号附則一四条、一七条によれば、被告会社の昭和六二年五月期の所得に関しては従前の税率が適用されることが明らかであるばかりか、たとえ量刑上の事情としても、犯行後における税率の低下を有利に斟酌することは、被告人らに対し同一の法令の適用される他の納税者と異なる取扱いを認めることに帰し、法の下の平等及び右経過規定の趣旨に背馳する結果を招くものであって、到底容認するを得ないところである。

更に、所論は、地価の高騰は不動産業者のみの責任ではなく、金融業者と不動産業者とが一体となって土地売却益を分け合っているのが実情であるのに、ひとり不動産業者に対してのみ土地譲渡利益についての重課税が課されているのは片手落ちであるから、この点を量刑上斟酌すべきであるという。しかし、地価抑制のため重課税の必要があることは所論も認めているところ、これを課すべき対象をどの範囲に限るかは総合的な租税政策上の問題であり、所論は、国会の適法に制定した法律につきその立法政策を理由なく非難するものであって、採るを得ない。

なお、その余の所論につき逐一検討しても、原判決の量刑が不当とは認められないとした前示判断を覆すに由なく、各論旨はいずれも理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 半谷恭一 裁判官 堀内信明 裁判官 浜井一夫)

平成三年(ウ)第二六七号

控訴趣意書

法人税法違反 被告人 明和地所建設株式会社

同 同 石関建治

同 同 恒川清

右の者に対する頭書被告事件についての弁護人らの控訴趣意は、左記のとおりである。

平成三年六月一〇日

主任弁護人 嶋田雅弘

弁護人 野田宗典

東京高等裁判所第一刑事部 御中

目次

第一 公訴事実について

第二 量刑不当について

一 原判決の分析

二 脱税額

三 ほ脱率

四 脱税の動機

五 脱税の手口

六 国税局への圧力

七 犯行の否認

八 単年度の脱税

九 脱税の本質―被害弁償

一〇 納税

一一 ほ脱の使途

一二 石関の反省と性格

一三 石関の実績

一四 恒川の反省と性格

一五 税務体制

一六 贖罪金

一七 判例

一八 保釈後の被告会社及び石関

一九 保釈後の恒川

第三 結論

第一 公訴事実について

一1.本件公訴事実は、被告明和地所建設株式会社の昭和六二年五月期の税務申告書のうち、本件土手町及び宮町の土地の売り上げに偽りがあったことの調査結果に基づいている。しかし、右昭和六二年五月期の本件土手町及び宮町の土地の取得原価等については、検察庁は調査をしていない。すなわち、被告明和地所建設株式会社の昭和六二年五月期の税務申告書の本件土手町及び宮町の土地の取得原価等が全て正しいとの前提になっている。

現在弁護人において調査をしているが、被告明和地所建設株式会社の帳簿等約二〇〇〇点以上が押収されており、昭和六二年五月期の原価帳もその中に含まれており、正確な本件土手町と宮町の土地の原価を確定することができない。

2.ところで、被告人石関建治の検察官に対する平成二年七月一〇日付調書二二丁表において被告人石関は本件土手町の土地について「岡膳との契約を違約金一〇〇〇万円と手付金の返還で応じて貰い仲介した新和商事にも相当の仲介料を支払った。」同二三丁表において「当社にはこのお金を用意することができなかったので・・・大宮市所在のコーエー商事から一億円を借用し、それからの支払いにあてることにした。」と述べている。これらはコーエー商事に対する金利も含め全て本件土手町の土地の取得原価になると思われる。しかしこれらが全て被告明和地所建設株式会社の昭和六二年五月期の取得原価に算入されているか否かが右同期の決算書では明らかにされていない。右同期の原価帳を調べなければ判明しない事項なのである。

3.更に被告人石関建治の検察官に対する平成二年七月一二日付調書一四丁表において被告人石関は本件宮町の土地について「当社が日特不動産に本件物件を売却する契約をした後の昭和六一年一二月一〇日ころ田代建設に違約金名目で一〇〇〇万円を支払っていたことが分かります」これは本件宮町の土地の取得原価になるか多少疑問の余地もあるが、不動産業界の実情、すなわち互いに物件を紹介し、協力し合わないと継続して企業を期待できなという実情からすれば直接・間接に必要であった経費であり取得原価に含まれると考えられる。

4.ところが、以上2・3は全て被告明和地所建設株式会社の昭和六二年五月期の本件土手町と宮町の土地の取得原価に計上しているかもしれないが、同期の原価帳を調査しない限り判明しないのである。現在、弁護人は東京高等検察庁及び浦和地方検察庁に被告明和地所建設株式会社の昭和六二年五月期の原価帳の提示を求めており、右提示があり次第、確定的な公訴事実についての弁護人の意見を述べる。

二 本件公訴事実の動機については後に詳細に主張するとおり、被告人石関も被告人恒川も正規の取り引きとの思いが強かったことをご考慮頂きたい。

第二 量刑不当について

一 原判決の分析について

1.被告人石関建治について

原判決の主たる量刑の理由のうち被告人石関に対し不利に判断した諸事情は以下の通りである。

ア 脱税額が約八億六千万円の巨額であること

イ ほ脱率が約八二パーセントと高いこと

ウ 被告人明和地所建設株式会社が被告人石関建治の個人会社であり、同被告人の利益確保や利益に充てた面が強いこと

エ 管理売春用に一億円を高利で貸し付けたこと

オ 本件犯行発覚後人を介して国税局に圧力をかけようとしたこと

カ 被告人相互で連絡をとり犯行を否認し、逮捕後暫くして自白したこと

キ 我が国税制の根幹をなす申告納税制度の納税者の義務に反すること

ク 本件犯行の実行行為の大半を受け持っていること

これに対し、原判決の主たる量刑の理由のうち被告人石関に対し有利に判断した諸事情は以下の通りである。

ケ 現在反省していること

コ 本件脱税額の他重加算税等も相当程度支払っていること

サ 業務の実情、地域社会への貢献、家庭の事情

2.被告人恒川清について

原判決の主たる量刑のうち被告人恒川に対し不利に判断した諸事情は以下の通りである。

a 脱税額が約八億六千万円の巨額であること

b ほ脱率が約八二パーセントと高いこと

c 受領した七億円余を納税資金とし全く使わず個人的に費消したこと

d 本件犯行発覚後人を介して国税局に圧力をかけようとしたこと

e 被告人相互に連絡をとり犯行を否認し、逮捕後暫くして自白したこと

f 我が国税制の根幹をなす申告納税制度の納税者の義務に反すること

g 本件脱税額等の支払いになんら寄与していないこと

h 前科

これに対し、原判決の主たる量刑の理由のうち被告人恒川に対し有利に判断した諸事情は以下の通りである。

i 実行行為にはさほど関与しなかったこと

j その他

前記第二の一記載の通り、原判決は被告人らの不利益な事情を多数列挙し、他方ほとんど被告人らの利益となる事情を考慮していないものと思われる。結局、その結果が被告人石関建治及び同恒川清に対する懲役二年の実刑並びに被告明和地所建設株式会社に対し罰金一億七、〇〇〇万円の判決となっている。従って、弁護人としては原審判決の量刑理由と対比しながらその不当性を主張し、又、原審判決が全く考慮していない、言わば遺脱した被告人らに有利な諸事情を主張し、更に原審判決後の被告人らに有利な諸事情を主張する。

二 脱税額について

本件の土手町大宮及びの二つの土地取引の取得原価について

1.前記第一の公訴事実において主張したとおり、その脱税金額については現段階においては争いがある。

2.脱税額については確かに巨額ではあるが後に詳細に主張するとおり、脱税犯の本質が刑法上の二項詐欺類似の犯罪であるとするならば既に十分被害弁償がなされている事実等を十分斟酌して頂きたい。

三 ほ脱率について

原審判決はほ脱率は約八二パーセントに達すると指摘し被告人らを厳しく処罰したが、ほ脱率が高いとか低いとかは量刑において確かに重要な要素ではあるが被告人らの他の有利な情状を全て否定する程の量刑理由ではない。

1.先ず第一に法人税の税率の点である。

ほ脱は被告人らのみではないことも公知の事実である。毎年脱税白書が公表されるが年を追う度にほ脱件数が増高の一途をたどっている。又ほ脱額も増高している。その背景の一因に直接の税率が高すぎることが指摘されている。本件犯行の昭和六二年五月期の法人税の税率は、配当をしない場合八〇〇万円までが三〇パーセントで八〇〇万円超が四二パーセントである。しかし、その後平成元年四月一日から配当しない場合八〇〇万円までが二九パーセント、八〇〇万円超が四〇パーセントと改正され、更に平成二年四月一日から配当の有無に関わらず八〇〇万円までが二八パーセント、八〇〇万円超が三七・五パーセントと改正された。これは直接税の税率が高すぎるとの国民の批判に対応した税率の改正であり、今後更に直接税の税率は引き下げられるものと思われる。このように税率が下げられ更に下げられようとしている事情、国民主権の下での国民批判・要請という点を考慮すればこの背景に則した本件の実質的なほ脱率は大幅に減少する。

2.不動産重加税について

法人の不動産売却については一般の法人税の他分離課税として二〇パーセントの重加税が加算れさている。確かに土地の価格抑制のため重加税を加算することは必要な政策であると思われる。しかし、地価高騰は不動産業者だけの責任ではなく、否、原審弁論でも指摘しているとおり、むしろ金融機関を含めた金融資本の責任という面が強い。ところで不動産業者は金融機関より借り入れた資金で土地を購入し、それを他に売却し金融機関に返済するのであるが、不動産業者の土地転売のための金融機関の借入金利は極めて高く、不動産業者と金融機関が一体となり、地上げ等を行う利益を分け合うという型になっている。しかし、金融機関の貸出金利がいくら高くとも重加税はなく一般の法人税だけ納めれば足りることとなっている。本件でも被告明和地所建設株式会社は約一〇パーセントもの借入金利を金融機関に対し負担している。不動産業者だけに重加税が課税されるのは片手落ちのように思われる。

3.巨大な上場企業によるほ脱事犯との均衡問題について

新聞等の報道により公知の事実とされているところであるが、大手企業が関連子会社や海外現地法人を利用し、あるいは本件と同じようにダミー会社を介在させるなどして架空経費を計上したり売上げを除外し、また完成工事や売上げを翌期に計上する方法をとったり、工事原価を水増しするなどの巧妙な手口により巨額な脱税をしばしば行っている。これらはいずれも重加算税が課せられており単なる申告漏れではなく脱税であることが明らかである。にもかかわらず大手企業の場合、修正申告をし、重加算税・延滞税等を課せられるだけで処理されているのに対し、本件のような中小企業の場合、査察調査を受けて告発され、逮捕勾留までされて本税の他重加算税等を課せられ、更に重い実刑と罰金の併科となることは一般人にも納得のいかない点と思われる。大手企業の場合、申告漏れが巨額(脱税額)であっても、全体の売上額が多額であることや、申告漏れの比率(ほ脱率)が低いことにより本件のような扱いを受けていない。そのような点も量刑判断にあたって考慮されたい。

四 脱税の動機について

1.被告人石関について

原判決は前記第二の一ウの分析のとおり、本件脱税を「不況時に備えた(被告会社の)裏金作りといった面も窺えなくもないが、被告会社の実態が被告人石関の個人会社であるところからすれば、結局同被告人の利益確保の面が強く、現に同被告人はその得た利益中約九、〇〇〇万円もの大金を個人的な趣味である競馬や飲食遊興費等に充てているのである。」と指摘している。しかし被告会社の将来の不況時に備えるための資金蓄積が主目的で被告人石関の個人的利益確保は飽くまで付随的な事がらである。

(一) また、後述するその使途から検討しても、被告会社の子会社として香港のフェルジナという会社を購入しており、しかも右フェルジナの社長に被告会社の常務取締役安田正美を就任させ、その上で約三億五、〇〇〇万円の六戸連棟式賃貸住宅を購入している。すなわち、被告人石関にすれば脱税が明らかになるとは思ってもいないのであるから個人的利益を追求するならば何も被告会社の子会社で香港のマンションを購入する必要はないのである。将来の不況に備えて被告会社の安定を図る必要があったからこそ、被告会社の子会社で購入したのである。

(二) 又、原判決は被告会社の実体が被告の個人会社であると認定している。しかし被告人石関と被告明和地所建設株式会社を同一視し得る個人会社なる概念は個人と会社の資産の区別がなく、役員・従業員も血縁者で占められ、個人商店と同視できるような場合のことである。しかし、被告明和地所建設株式会社は、社員が一二名、役員の安田も血縁者ではなく、関連会社として株式会社高砂開発、株式会社明和建栄設計事務所及び株式会社和幸があり、その従業員が約四〇名であり、被告明和地所建設株式会社のグループでは約六〇名がおり、経費だけでも月二億円強がかかっている。被告人石関とすればこれだけの従業員及びその家族、更には取り引き関係者まで食べさせなければならなかったからこそ、本件脱税を決断したのである。五億円もの金額を被告明和地所建設株式会社の裏金として留保しておいても不況時になれば焼け石に水であったかもしれいなが、不動産業界は特に業界に比べ好・不況の波が大きく、備えがなければ直ちに倒産の危機に直面する業界であるため、被告人石関は本件脱税を敢行したのである。

(三) 法人税法上、繰越欠損金の控除が認められている。

(1) しかし、法人税法上の繰越欠損金の控除は赤字が続いた後五期に遡って当期の利益を圧縮するというシステムである。大幅な黒字となった後翌期に赤字となっても税金の還付を認める制度でない。すなわち、被告明和地所建設株式会社が昭和六二年五月期に大幅な黒字計上をして多額の法人税等を納税しても、仮に昭和六三年五月期、昭和六四年五月期と赤字が続いても、昭和六二年五月期に納めた法人税等は全く還付されない。要するに昭和六二年五月期の利益は現行法人税上その後の損金には全く役に立たないのである。ところで、不動産業者(被告明和地所建設株式会社も同じである)が地域開発・地上げ等をする場合、通常数年の期間を要する。この地域開発等は金融機関から融資を受けて不動産業者がその任に当たるのであるが、実体は共同事業である。金融機関は毎年金利を売上げに計上し、数年後に地域開発が完成した時に元金の返済を受けるため数年間にわたり、受取利息すなわち利益を分散させることができる。

ところが、不動産業者(被告明和地所建設株式会社も同じである)は、地域開発が完成するまでの数年間、金利負担に耐え、地域開発が完成した期に全利益を計上しなければならない。そして次の年から又不動産業者は新たな地域開発のための金利負担に耐えなければならない。同時に数十の地域開発を手掛けられる大手不動産業者であるならば利益計上の調整ができるが、中小の不動産業者には無理である。本件の脱税事件の背景には右のような税制の不備が指摘されるものと思う。

(2) 又、重課税は分離課税であり、法人税法上、繰越欠損金の控除が全く認められていない。安く仕入れをした土地を高く売った場合、重課税を課するのは土地高騰を抑制するため必要な制度であるが、逆に高く仕入れた土地を安く売った場合、以前支払った重課税も還付する等の制度があってしかるべきではなかろうか。不動産業界の好・不況の波が大きいことを考えれば、右の点も量刑において斟酌して頂きたい。

(四) そして一番重要な点は、原審において弁護側から全く主張されていない次のことである。すなわち、本件脱税の動機、否、犯罪一般について動機は複雑なものがあり又微妙に揺れ動くものがある。

被告人石関は本件脱税以前に被告人恒川の借金の窮状を知っていた。

一方、被告人石関は被告人恒川に親しみを感じ競馬等を通じて言わば親子に似た関係であったと言っても過言ではない。そのような折、土手町と宮町の物件の売却の話となり、この機会を利用して被告人石関は税金を払うよりは被告人恒川に儲けさせてあげたいと思うようになった。後で詳細に主張するとおり被告人石関は被告人恒川に合計七億三、〇〇〇万円位を渡しており、又そのために株で約九、〇〇〇万円もの損害を受け、しかも被告人恒川から納税名目に金一億五、〇〇〇万円をもっていかれても脱税協力金として追認している。このようなお金の流れは被告人石関の被告人恒川に儲けさせてやりたいと言う気持ちを除いては全く理解することができない。被告人石関は本件土手町及び宮町の取引に両茅部商事をダミーとして介在させたが、被告人石関にしてみれば被告人恒川に儲けさせる意図があり、その点から正規の取引きであったとする思いがあった。被告人石関と被告人恒川が宮町の物件の取引を御祝儀の取引きにしようと話合った心の内側には全て嘘ではない正規の取引なんだという真意も存在していたのである。

恐らく捜査をした検察庁も、原審裁判所もこの巨額な金の移転については不可解な点としていたものと思われる。いくら被告人石関が脱税をしたという弱みがあるらかと言って、又いくら被告人恒川がその弱みにつけ込んだと言っても、このお金の流れは不自然極まりない。そしてそもそも被告明和地所建設株式会社から両茅部商事に利益を移転し、その利益の大半を両茅部商事に残すことを最初の段階から被告人石関と被告人恒川との間において合意されていたのであるから、被告人恒川が弱みにつけ込んで被告人石関がこれだけの金額を移転したと考えるのは不自然である。この不可解な点の真相を明らかにするためには、被告人石関と被告人恒川の付き合いに着目せざるを得ない。被告人石関は、被告人恒川の借金の窮状を知悉しており、何とか被告人恒川に儲けさせてやりたいと常々思っていた。一般的に考えても、親しい不動産業者の間では、互いに今回はそちらに儲けさせるとかで、さしてその仕事に貢献していない業者に儲けが相当程度移転されることがある。これは、不動産業の税率が重課税等で高率であり、一期だけの利益では会社を継続することが困難なため、不動産業者同志が互いに助け合い、節税を図り、今回はそちらを助けるから来年はこちらを助けてくれというように、利益の移転を行っているのである。本件の場合、被告人恒川が被告人石関及び被告明和地所建設株式会社のため、競争馬のことの世話を無償でしてくれたり、以前被告明和地所建設株式会社が苦しいとき手形で取引をしてくれたりしていたことや、被告人石関と被告人恒川の親子にも似た関係があったため、被告人石関としては機会があれば被告人恒川を売買の間に入れて利益を移転してあげたいと考えていたのである。このような背景を理解して初めて本件の前記の不可解な点の解明ができる。以上の点からすれば、被告人石関が本件土手町と宮町の取引に両茅部商事を介入させた心理がよくわかる。とすると、被告人石関は、本件両茅部商事との土手町及び宮町の物件の取引が架空ではなく正規の取引であると思い込んでいたのも理解ができる。検察庁では、被告人恒川が何もしていない本件土手町と宮町の物件の取引について両茅部商事を介入させることはあり得ないとの点から調書が作成れさている。しかし被告人石関と被告人恒川の関係からすれば、あり得るのである。被告人石関も被告人恒川も法的知識は乏しく、本件土手町と宮町の物件の両茅部商事との取引が税務署や検察庁、更には裁判所でどのような評価を受けるのか理解していなかった。ただ被告人石関も被告人恒川も、その思いは正規の取引なんだということであった。

(五) 以上縷々として主張してまいりましたが、被告明和地所建設株式会社に被告石関の指揮の下、昭和五〇年代後半の営業不振を乗り切るため、経費節減を計りそれまでいた約六〇名の社員を四分の一に減らし、いわゆる減量経営により経営を続行してきたのであって、被告人石関及び被告明和地所建設株式会社としてはその間の大変な苦労をした。そのため、再び不動産不況が訪れるのが必至であるため、本件脱税を敢行してしまったその動機については、充分量刑においてご配慮お願い申し上げます。

又、被告人石関と被告人恒川の本件土手町と宮町の物件の両茅部商事との取引は正規の取引であったとの思いも裁判所におかれましては十分斟酌して頂きたくお願い申し上げます。

(六) 前科について

更に原審は「同時期にいわゆる管理売春に用いられることを承知の上で一億円を高利で貸しつけていることなども併せ考えれば、被告人石関の利益追求のためには手段を選ばないといった態度も窺われる」と認定している。

確かに売春をさせることを業とする者に資金提供することは決してしてはならない犯罪である。しかし、年利一五パーセントは一概に高利とは言えない。クレジットや信販には年利四〇パーセント位の高利が常識である。又、地上げに対する金融機関の貸し出し金利も高い。したがって、年利一五パーセントの一事をもって「利益追求の為」と認定するのは酷である。中小企業経営者の税に苦しむ姿をある程度斟酌して頂きたい。

五 本件脱税の手口について

1 原審の弁論要旨においても主張したとおり本件の脱税の手口は極めて幼稚・拙劣である。

原判決は「その方法が卑劣な者であることはいうまでもないが」と認定している。しかし、脱税という犯罪、否犯罪一般全て卑劣であり、これでは特に量刑の理由を述べる必要もなくなるのではなかろうか。

犯罪一般が卑劣である以上、個々の犯罪を具体的に検討してその特殊性を量刑の理由とすべきものと思われる。

原審の弁論要旨でも主張したことの繰り返しとなるが、本件の脱税は大宮市土手町の約五一二坪の土地を銀二土地株式会社に売却するについて、その間にダミー会社として茅部商事株式会社を、また、大宮市宮町の土地約二四〇坪を日特不動産株式会社に売却するのに際し、その間に株式会社茅部商事をダミー会社として介在させただけであり、<1>所有権移転登記の形態を見ると、被告会社から銀二土地株式会社あるいは日特不動産株式会社に直接所有権移転登記をしているだけでなく、<2>ダミー会社との契約日、及びダミー会社からそれぞれ銀二土地あるいは日特不動産への契約日がいでれも同日付けであり、見る者が見ればこれらの契約は一見して利益を圧縮するための形式だけの契約であり、不動産の実際の移転は明和地所建設から銀二土地あるいは日特不動産に行われたことが明らかである。又、<3>大宮市土手町の約五一二坪の土地を売却するに際し、ダミー会社として介在させた茅部商事株式会社は既に解散登記がされている実体のない会社であり、税務署の職員でなくとも素人でも不自然に思うのが当然であった。その上、<4>これらの契約書の作成等はいずれも明和地所建設の担当社員らによって行われているのであり、被告人恒川の手を経てはおらず、また、<5>土手町の売却経路を例にとると、売主の明和地所建設から買主の銀二土地株式会社までの間には、仲介業者として個人の仲介業者丸岡保男、株式会社前地商事(代表取締役 池畑誠)、株式会社大和不動産(代表取締役小山清吉)らが介在し、それぞれ仲介手数料を取得し、本件の取引きの実態を知悉しているのであって、土手町あるいは宮町の土地の売買契約書上の当事者がいかに茅部商事株式会社あるいは株式会社茅部商事になっていたとしても、それのみをもってダミー会社を介在させた取引であると主張し切れるものではないのである。これらの点を見ると本件の脱税の手口、方法は余りにも幼稚、拙劣、お粗末極まりないと言わざるを得ない。

被告人石関は、これまで一度も税金をごまかしたことがなく、本件脱税が初めての経験であったにせよあまりにもお粗末であった。裁判所におかれましてはこの幼稚な被告人石関の軽率さを犯行の手口が単純で稚拙であると評価して頂きたくお願い申し上げます。

原判決は、被告人恒川が「実行行為にはさほど関与しなかったものの」と認定し、被告人恒川の量刑において有利な事情として評価しているように思われる。正にそのとおり思われる。本件脱税は、被告明和地所建設株式会社の昭和六二年五月期の確定申告によるものであるから、被告人恒川はほとんど関与していないのである。

2 被告人恒川の脱税協力の動機について

(一) 被告人恒川は競馬が好きで、その費用のため借金を重ね、暴力団から月一割という高利で借金し、友人の梶原と互いに保証しながら、本件脱税の土手町及び宮町の土地取引の昭和六一年頃には金六、〇〇〇万円もの借金をしてしまっていた。

貸主のヤクザ者は、柴田の茅部商事にも被告人の自宅(西川宅)にも取り立てに来ており、被告人恒川は、この借金を返済しなければ自らはもちろん家族の命さえ危ないと考えて、この借金を何とか返済することで頭の中が一杯であった。

事実、被告人恒川は、浦和から上野の組事務所まで連れていかれ、借金返済を早くするように散々脅されたこともあり、又そのため息子の嫁を実家に返しもしていた。

丁度その頃、被告人石関より、土手町の土地取り引きについて、介入を引き受けて欲しいとの依頼を受けた。被告人恒川にしてみれば、正に天の助けであった。脱税が犯罪であることは充分知っていたが、暴力団から自分や家族の命を守る方を優先しなければならないと即断した。被告人恒川の当時の意識としては、税金を免れるのは世間一般で広く行われていることであり、何とかなるだろうという安易な考えが先行していたのである。

(二) 又、被告人石関は、この土手町と宮町の物件の取引の脱税による協力金を元にして暴力団に対する借金を全部返済した上、まともに不動産業の出来る資金をも作ろうと考えた。株式会社茅部商事を設立したのは、そのような動機からであった。そして、株式会社茅部商事を軌道に乗せ、これまで散々迷惑・苦労を掛けた息子に渡してあげたかったのである。

裁判所は、そうは言っても大部分競馬等で個人的に費消しているではないかと御指摘するかもしれません。しかし、それは不慣れな大金を手にした被告人恒川が有頂天になってしまい、足を踏み外したことによるものであり、そもそもの当初の動機ではないのである。

裁判所におかれましても、このような被告人恒川の窮状及び子供思いの気持ちが本件脱税を敢行させた点を十分斟酌して頂きたく、お願い申し上げます。

(三) 更に、この点がもっとも大切な点であるが、被告人恒川には被告人石関と同じように、本件土手町及び宮町の物件の両茅部商事との取引を正規の取引であると思い込んでいたのである。

被告人恒川は被告人石関に対し、本件土手町の取引で儲けの折半を要求している。これに対し、被告人石関も直ちに了解している。これは、単なる脱税協力金としては、常識外れの高額な金額となり理解に苦しむ。

被告人恒川が被告人石関を欺いたと見るのも不自然である。何故なら、確かに被告人恒川が被告人石関に「小判鮫のように社長にくっつき、沢山吸い上げて自分も太ったと見られるかも知れませんが、まさしくその通りであります。」と見ることも出来るかも知れないが、そうであるならば折半にするとの約束を、被告人恒川と被告人石関は当初から本件土手町の取引前からするはずがないのである。

脱税協力金とては、あまりにも高額であり不自然であり、更に被告人恒川が被告人石関から吸い上げたと見るのも無理があるとすれば、一体何故このような高額(金七億三、〇〇〇万円)な金が被告明和地所建設株式会社から両茅部商事に移転したのか。それは、被告人石関が被告人恒川に儲けさせてあげたいと思っていたからであり、被告人恒川も右被告人石関の考えを了解していたからに他ならない。このように考えなければ理解出来ないのである。そして、被告人石関の動機において主張したとおり、被告人石関と被告人恒川の親子にも似た関係からすれば、このように考えるのがもっとも自然なのである。

特に、宮町の取引については、被告人恒川も被告人石関も、株式会社茅部商事が新しく設立されたため、その御祝儀に株式会社茅部商事に儲けさせようとしたことは間違いない事実であった。

そのため、被告人恒川は、本件宮町の被告明和地所建設株式会社と株式会社茅部商事の取引において約四億五、〇〇〇万円位の利益があると考えており、この利益を折半するつもり等毛頭なく、全て自分の株式会社茅部商事の利益を考えていた。ただ土手町の取引と併行的に行われたため、両者が一緒となり混同してしまい、結果的に七億三、〇〇〇万円もの利益となったものである。したがって、少なくとも被告人恒川には宮町の物件の取引で被告明和地所建設株式会社の脱税に協力しようとする意識より、正規の取引であると思う意識の方が強かったのである。

六 前記第二の一のオ2のdについて

原判決は「人を介して国税局に圧力をかけようとしたり」と認定している。この認定が何を意味するか定かではないが、部落解放同盟の山本千代松が交渉したことを意味するのであるならばそれは交渉であり圧力ではなかった。更に右は本件脱税後の事情であり、そうであるなら被告明和地所建設株式会社及び被告人石関建治が既に山本千代松と縁を切っている事実も評価して頂きたい。

七 前記第二の一の1のカ2のeについて

1 被告人石関について

原判決は「(被告人らは)相互に連絡をとりあって犯行を否認し、逮捕後暫くしてようやくこれを認める」と認定している。確かにそのとおりである。しかし昭和六三年二月頃、大宮税務署、浦和税務署の各係員と被告人石関が面接した際、被告人石関は「取り敢えず確定申告で出した五億七、〇〇〇万円の税金を払ってしまい、とにかくけりをつけてしまいたいという気持ちでした。」と既にこの時点で被告人石関は大半の納税をする決心をしており、又「昭和六三年六月に恒川の茅部商事が更正を受けた事については、私は納税していった方がいいと判断しました。」とこの時点でも再度、大半を納税する判断をしている。

更に、平成元年一月二四日以降国税局の強制調査を受けた際、被告人石関は「明和地所建設の脱税であり、六二年五月期の申告は正しいものではないことを認め、本件の全容について要点を申し上げたのでした。」

「東京土地の松井常務にもお願いして隠匿してもらっていた割引債の件も申し上げて松井常務を説得して出して貰ったということもありました。その時、私が電話で松井常務を説得しました。」木部専務に対し「私は香港の方も割引債の方も出してしまったのでこれ以上突っぱってもしょうがないから全部話してくれと言ってやりました。」と本件検察庁の捜査の前に自白するに至っているのである。

確かに捜査段階で一転して否認したが、それは被告人石関が売春防止法違反の罪で執行猶予中の身であり、又被告明和地所建設株式会社が銀行融資をストップされ倒産するのではないかと心配し、更には正規の取引との思いがあったためであった。一般に刑事被告人の心理は揺れ動くものであり、原判決は捜査段階で否認した点のみを指摘し、それ以前の国税局等に自白したこと等を全く評価していないのは酷過ぎるものと思われる。

更に、前記第二の四動機の(四)において主張したとおり、被告人石関は本件土手町と宮町の物件の両茅部商事との取引を正規の取引であるとする思いがあった。特に宮町の物件取引については株式会社茅部商事が新しく設立され、被告人恒川が独立したため御祝儀として正規の取引で儲けさせるとの思いが強かった。これらの思いが被告人石関の否認する態度につながったことも否定出来ない事実である。被告人石関の心理には脱税と評価されるのは止むを得ないという気持ちと、しかし正規の取引であったとの思い込みが入り乱れたのであるからどうか裁判所におかれましては、被告人石関の動機とともに十分斟酌して頂きたくお願い申し上げます。

2 被告人恒川について

(一) 確かに被告人恒川には、税務署の調査以来、被告人石関に脱税の自白を思い止ませるような言動を若干行っていた。しかしこれは、被告人恒川の義理堅い性格・忠義心の表れなのである。すなわち、被告人恒川にしてみれば被告人石関は本当に親しい友人であり、折半乃至それ以上もの利益を自分のためにくれる被告人石関には絶対迷惑を掛けられないという気持ちが強かった。被告人恒川は「今まで随分世話になって義理のある石関社長までも巻き込んで処罰を受けなければならなくなると思ったので、ありのままが言えませんでした。」「今日弁護士さんと接見させてもらい、弁護士さんにもう全部喋りますから、石関社長に謝っといて下さい。」と被告人石関に対する筋を通してから自白した。被告人恒川は、否認の理由として、以前刑務所に入っていたからと調書で述べたことがあるが、それは偽りである。被告人恒川は自分だけならば刑務所に入ることの覚悟は容易に出来たのである。しかし被告人石関を巻き添えに出来なかったため、自白出来なかったのである。裁判所から見ると馬鹿げていると判断出来るかも知れないが、被告人石関の性格・人生観からは義理を通すことが何より大切であったのである。どうか裁判所におかれましては、この被告人恒川の奉仕にも似た精神を充分斟酌して頂きたくお願い申し上げます。

(二) 更に、被告人恒川には、前記第二の四の動機の2において主張したとおり、正規の取引であるとの思いが強かった。特に、宮町の物件の取引は、新しく設立した株式会社茅部商事の御祝儀であったのだからとの思いが極めて強かった。このため否認したとの事情も裁判所におかれましては斟酌して頂きたく、お願い申し上げます。

八 単年度の脱税事件であること

1 原審の弁論要旨におていも詳細に主張したとおり、本件は被告明和地所建設株式会社の昭和六二年五月期一期の脱税事件である。

通常の脱税事件、そして高額な脱税事件を見ると、そのほとんどが三期位にわたり連続して敢行されている継続脱税事犯であり、更に子細に検討すると、起訴されたのは三年間の継続事犯であるが、その根底には通常五年あるいは七年と脱税の状態が継続してきて、その後の三年間分の事件が起訴されている事例が少なくない。実際には七、八年あるいは一〇年位の長期間にわたって脱税が敢行されてきたのであるが、国税局の調査の期間あるいは時効などの関係から起訴は最後の三年間位に止められるのが通常であるが、本件の場合、昭和六二年五月期以前は、被告会社は脱税を行うどころか、その反対に金融上の必要から粉飾決算をして納めなくても良い法人税を国庫に納付してきているのである。

2 本件脱税の動機と関連することでもあるが、本件脱税の背景要因に急激な地価高騰の事実が存在する。急激な地価高騰があったために本件脱税が敢行されたのであり、それゆえ単年度の脱税事件となったのである。地価高騰の原因については新聞・マスコミ等でいろいろと取り上げられたが、結局のところ政府の土地政策・金融政策等(アメリカ等の財政政策も含まれる。)の失敗、金融資本(金融機関、生命保険会社等)の意図的な政策、不動産業者や地主の欲等様々な要員が重なったものと思われるが、中小零細の不動産業者にとってはこの地価高騰は正に「神風」であり、この機会に資金繰りに追われる経営の脱却を図らなければならなかった。

被告明和地所建設株式会社もこの「神風」を利用し本件脱税を敢行してしまったのである。もちろん地価高騰だから脱税が許されるものではないが、被告明和地所建設株式会社及び被告人石関にしてみれば偶然にも予期せぬ機会が目の前に向こうから駆け寄ってきてしまったのである。このような背景も裁判所におかれましては充分に考慮していただきたいと思います。

九 脱税の本質――前記第二の一の1のキ、コ及び2のfについて

原判決は「被告人両名の本件脱税行為は、我が国税制の根幹をなす申告納税制度の期待している誠実かつ良心的な納税者の義務に反すること甚だしく、また事後に脱税額の大半を支払ったからといって、その犯行の結果を軽視することは大多数の善意の納税者の納税意欲を著しく削ぐことにもなるのであって社会に及ぼす影響も十分考えなければならない」と厳しく指弾する一方、「本件脱税額のみならず重加算税等も相当程度支払っていること」と被告人石関に有利な量刑理由として認定している。

1.しかし、法人税法第一五九条第一項は「偽りその他の不正行為により・・・法人税を免れ」に者を処罰しているところからすれば、脱税は国を被害者とし、国の徴税権を被害法益とする、刑法上の二項詐欺に類似した犯罪ということができる。

ところが、詐欺罪に限らず、一般に財産犯については被害額が相当高額であってもその被害が回復され、被害がなくなれば国が刑罰権を行使する必要性も少なくなる。かなり高額な詐欺事件や横領事件であっても起訴前にその被害が弁償されれば起訴猶予処分に付され、起訴後に被害が弁償されればほとんどの場合、執行猶予が付けられる。脱税が国を被害者とする詐欺罪類似の犯罪であるならばほ脱額と遅延税を納めることによって国の被害は回復されたことになる。更に重加算税まで納めれば、制裁金を支払ったことになりこのような脱税犯に対しては、国の刑罰権の行使も軽度なものに止められて然るべき事案となる。

本件においては後に詳細に主張するとおり被告明和地所建設株式会社は昭和六二年五月期の法人税金一二億〇〇五七万二五〇〇円を既に完納しており、遅滞税金三八六万四、三〇〇円も完納している。したがって、是非とも被告人石関及び恒川に対し、執行猶予付判決を賜りたくお願い申し上げます。

2.原審は「大多数の善意の納税者の納税意欲を著しく削ぐ」と指摘しているが本件脱税により、本来法人税金一二億〇〇五七万二、五〇〇円を納税すれば足りていたものを合計金一四億二、七三一万五、三〇〇円を納めなければならなくなり、既に金一二億〇、八三三万二、三〇〇円を納めている事実からして被告人石関に執行猶予付判決を付しても善意の納税者の納税意欲を著しくはもちろん全く削ぐこともないものと思われる。

尚、前記第二の三の3において主張したとおり善意の納税者は大企業の脱税との取扱の差異の方が納得しないものと思われる。

3.更に原判決は、「社会に及ぼす影響も十分考えなければならない」と指摘するが、類似犯罪の発生の予防という観点からの指摘と思われるが、確かに毎年巨額な脱税事件が多発しており、これをこのまま放置できない状況になっていることは十分理解できるが<1>被告人石関は後に詳細に主張するとおり既に十分制裁を受けている点<2>本件脱税は単年度であり且つこれまで脱税を犯していない点<3>国の刑罰権の行使は可能な限り抑制的であるべきこと等を充分考慮して頂きたい。

一〇 ほ脱税額等の納税について

(一) 昭和六二年五月期

1 原判決までの納税状態

<1> 法人税 一二億〇〇五七万二五〇〇円

納付済 一〇億〇五六七万一二四四円

未納額 一億九四九〇万一二五六円

<2> 過少申告加算税 二、四五〇万六、五〇〇円

納付額 三八九万五、五〇〇円

未納額 二、〇六一万一、〇〇〇円

<3> 重加算税 一億九、八三七万二、〇〇〇円

納付済 〇円

未納額 一億九、八三七万二、〇〇〇円

<4> 延滞税 三八六万四、三〇〇円

納付済 三八六万四、三〇〇円

未納額 〇円

2 原判決以後の納税状況

<1> 法人税

平成三年一月七日 金八、〇〇〇万円を納付

同年二月四日 金二、五九〇万六、三〇〇円を納付

同年二月四日 金五、四〇九万三、七〇〇円 〃

同年三月一二日 金三、四九〇万一、二五六円 〃

以上により昭和六二年五月期の法人税を完納した。

(二) 昭和六三年五月期以降の納税

1.昭和六三年五月期

更正のため法人税〇円

2.平成二年五月期

法人税 七、二七五万七、九〇〇円納付済

延滞税 七六万五、九〇〇円納付税

3.とすると被告明和地所建設株式会社は昭和六二年五月期の法人税合計金一二億〇、八三三万二、三〇〇円の税を納めていることになる。又、前記第二の九の1において主張したとおり脱税が刑法上の二項詐欺類似の犯罪である以上、これだけ被告明和地所建設株式会社が納税をしている点を十分評価して頂きたい。最近、地価高騰が多くなり不動産業者に対する融資が抑制されている中、被告明和地所建設株式会社は諸経費の支払をした上、これだけよく納税をしたものと思われる。通常の脱税事件の場合、ほ脱した資金を脱税側に留保されているため、脱税が発覚した後、本税の他重加算税等の納税をするのもさほど苦ではないはずである。しかし、本件の場合、後に詳細に主張するとおり、株の暴落による損の他本件脱税の協力者であり、共犯とされている被告人恒川清の方へ約七億三、〇〇〇万円が渡されている。被告明和地所建設株式会社のほ脱の裏金は約五億五、〇〇〇万円であった。このような状況下において昭和六二年五月期の本税その他の合計一四億三、六三一万五、三〇〇円を納めることは中小企業にとっては至難の技である。大企業が本税・重加算税等を納税するのとは比べものにならない程の努力を要する。言わば詐欺罪に例をとれば金のある人が被害弁償するより金のない人が被害弁償する方が量刑において評価されるのではなかろうか。

4.株式会社茅部商事の納税について

(一) 被告恒川は本件脱税に協力したが、株式会社茅部商事は、被告人恒川が柴田から離れ独立するための会社として設立された。その株式会社茅部商事において以下のとおり納税している。

昭和六二年七月期

法人税 金六、一三七万六、〇〇〇円

納付済 金六、一三七万六、〇〇〇円

法人事業税 金一、五二九万五、四〇〇円

納付済 金一、五二九万五、四〇〇円

法人県民税 金三六九万円

納付済 金三六九万円

昭和六三年七月期

法人税 金三三万三、一〇〇円

納付済 金三三万三、一〇〇円

法人事業税 金〇円

法人県民税 金一七万七、一〇〇円

納付済 金一七万七、一〇〇円

平成元年七月期

法人税 金一五万九、〇〇〇円

納付済 金一五万九、〇〇〇円

法人事業税 金〇円

法人県民税 金一万円

納付済 金一万円

平成二年七月期

帳簿等一切が押収されたため概算で申告した。

(二) 株式会社茅部商事は昭和六二年七月期以降より現在まで社会保険料・労働保険料の滞納は全くなく市民税も全納している(市民税については公判中とのことで納税証明書を交付してくれない。)

以上のとおり、被告人恒川は本件により税に対する考えを一八〇度変えて、善良な納税者に現在ではなっている。

一一 ほ脱の使途について

1.被告人石関について

原判決は、ほ脱の使途について被告人恒川清が金七億円余を受け取ったことを認定し、被告人恒川の不利益な量刑認定として指摘しているが被告人石関の量刑についてはその使途についてあまり触れていない。

すなわち、被告人恒川清の不利益な量刑として認定する以上、その点は逆に被告人石関に若干なりとも有利な量刑理由となるはずである。

(一) 原審の弁論において詳細に主張したとおり、本件の土手町と宮町の土地のほ脱額は合計一三億七、〇〇〇万円であり、納税資金としていた株の売却損が約九、〇〇〇万円であるから、裏金としては差し引き一二億八、〇〇〇万円が残る計算であった。しかし、このうち約七億三、〇〇〇万円が被告人恒川に渡されている。

仮に、被告人石関が本件の土手町と宮町の土地の売却を正当に税務申告していたなら後八億六、〇五八万四、六〇〇円を納税すればよいのであった。もっとも埼玉県事業税(三五〇万円まで六パーセント、三五〇万円から七〇〇万円まで九パーセント、七〇〇万円から一二パーセント)、埼玉県民税(六パーセント)、大宮市民税(一四・七パーセント)の差引納税額の合計三億一、五三三万二、六五〇円は掛かる。右の合計の一一億七、五九一万七、二五〇円を約一三億七、〇〇〇万円から差し引くと一億九、四〇八万二、七五〇円となる。

とすると、被告人石関が本件脱税により利益しようとした金額は約三億五、〇〇〇万円であったことがわかる。

被告人石関としては、約五億五、〇〇〇万円が裏金として得をしたと思っていたようであるが、実はそれ程の得をするような脱税ではなかったのである。

そこで、何故被告人石関がこのように馬鹿げた脱税をしたのか、原審弁護人と同様に当審の弁護人としても悩むところであるが、

<1>被告人石関は、被告人恒川の言われるまま何んだか随分儲かると錯覚していたこと、<2>被告人石関はこれまで税金をごましたことがなく、脱税は初めての経験であったため、計算をして計画的に本件脱税をしなかったこと<3>第二の四の動機の(四)で主張したとおり、被告人石関としては正規の取り引きであるとの思いがあったとこが挙げられる。

右のように、被告人石関の本件脱税は、<1>恐ろしい程馬鹿げており、稚拙である点、<2>本件脱税が成功を収めていても、脱税額(約金八億円)に比し大分低い金額(約金三億五〇〇〇万円)しか利得がなかった点を裁判所におかれましては、被告人石関にとって有利な量刑理由として充分斟酌して頂きたくお願い申し上げます。

2.被告人恒川について

被告人恒川は被告人石関から約七億三、〇〇〇万円を受け取っている。うち一億七、五〇〇万円は脱税協力金として柴田に対し支払い、うち七、〇〇〇万円は清宮に対し貸し付けし、うち、一、〇〇〇万円も柴田に対し貸し付けをし、うち七、〇〇〇万円は国税の支払いに充てられ、その他は暴力団への借金の返済、競馬、株式会社茅部の諸経費として費消された。

しかし、この無計画な金の使い方こそ、被告人恒川の性格をよく表しており全く巧妙さに欠ける間の抜けたお人好しなのである。現在被告人恒川は無一文に等しく、本来被告明和地所建設株式会社に全額返還し、被告明和地所建設株式会社の納税に協力すべきであるが、清宮や柴田に貸し付けた合計八、〇〇〇万円の返済もされないため、この貸付金のうち清宮の分金七、〇〇〇万円についてだけは被告明和地所建設株式会社に返済されるように段取りをした。

一二 被告人石関の反省とその性格について

(一) 被告人石関の反省について前記第二の一の1のケのとおり、原判決は「現在では反省を深め」と認定し、被告人石関の有利な量刑理由として指摘している。

しかし、犯行を行うに至る心理、犯行後の心理には微妙な揺れ動きがあり、被告人石関が現在深い反省をしいるのは当然だと言えば当然であるが、そこに至る経緯の中でも、被告人石関は随分と色々な意思・思いを有しながら悩み・反省していたのである。

(二) まず不動産の取引は、その利益が巨額になる一方、税率も高く、又、不動産業全体の好不況の波の大きいこと等から不動産業者に脱税の手助けをする者が近づいてくる。しかし、被告人石関は本件脱税以前には、このような協力者やかぶり屋の脱税の申し出を拒否していた。もっとも被告人石関は「被告明和地所建設株式会社の営業状況は、全くそんなものを必要としませんでした」と調書で述べているが、これは間違いである。というのも、不動産の譲渡には、会社の黒字・赤字に関係がなく課せられる分離の重加税があるからである。したがって、被告人石関はかぶり屋等を信用できなかったという面もあるが、法を遵守していたと積極的に評価して頂きたい。

そして、被告人石関は被告人恒川のことを真から信頼し、馬のこと等に関しては尊敬もしていた。そのような折、被告人恒川から「何かなった時は(税金を)安くすることができますから、声を掛けて下さい」と誘いを受けていた。そして、本件の土手町と宮町の物件の売却の時期となり、被告人石関は頭の中に以前被告人恒川から言われていた言葉がよぎり、被告人恒川に「国土法を通さなければ向こうの買ってくれるという価格で売れないんですよ。」と水を向けてみたのである。これに対し、被告人恒川は積極的に「それじゃ茅部商事でやらせて下さい。税金は殆ど払わなくて済む様にできますから」と脱税を勧めた。被告人石関は、被告人恒川を信頼し尊敬し好きであった。被告人石関は、税金を払うより、被告人恒川の借金苦の窮状を知っていたので、被告人恒川に儲けさせてあげたかったのである。この二人の親子に似た変な関係が被告人石関をして本件脱税をさせてしまった一番大きな原因である。被告人石関は、被告人恒川に合計七億三、〇〇〇万円も渡しており、しかも被告人恒川から納税名目に金一億五、〇〇〇万円を取られているが、これも脱税協力金として追認している。被告人石関は被告人恒川に儲けさせてあげたかったから右のような結果になっているのである。そして被告人石関として脱税の意思の他に、正規の取引で被告人恒川に利益を移転したという思いも反面していたのである。特に本件宮町の物件の株式会社茅部商事と被告明和地所建設株式会社との取り引きについては、被告人恒川が株式会社茅部商事を設立し独立した御祝儀として株式会社茅部商事に利益を移転したいとの思いが強かったのである。被告人石関にしてみれば、本件犯行を否認した理由には、以上のような利益を被告人恒川に分け与えるという正規の取引と同じような思いもあった点を、裁判所におかれましては、充分斟酌して頂きたくお願い申し上げます。

又、本件脱税に関しては、原審の弁論でも主張したとおり、やや被告人恒川の方が積極的であった点も、被告人石関に有利な量刑理由として斟酌して頂きたく、お願い申し上げます。

(三) そして、前記第二の七の1において詳細に主張したとおり、<1>被告人石関は昭和六三年二月頃の大宮税務署・浦和税務署各係員と面談の際、本件ほ脱額八億八、〇五八万四、六〇〇円のうち茅部商事を介して五億七〇〇〇万円を払おうと思い、<2>更に、昭和六三年六月の株式会社茅部商事が更正決定を受けた際にも同様の判断をしている。

又、平成元年一月二四日以降の国税局の調査を受けた際も、被告人石関は本件脱税を認め、木部専務に真実を述べることを誘め、東京土地の松井常務に対しても、割引債の提出を説得した。しかし、その後一転して捜査当初否認したが、再び捜査段階で自白したのである。被告人石関の心中は自白と黙秘に揺れ動いていたのである。被告人石関は少なくとも国税局の査察を受けた段階から充分に反省の気持ちは持っていたのである。それが自らの前科や被告明和地所建設株式会社の将来を案じて更に正規の取引であったとの思いもあり心が揺れ動いたのである。

どうか、裁判所におかれましては、この被告人石関の悩みの過程を充分に斟酌して頂きたくお願い申し上げます。

(四) 被告人石関には人から好かれるところがある。それは、男気が強いからである。大宮周辺の地元(高崎線の沿線地区)において、被告明和地所建設株式会社はその実績においてトップクラスである。しかし、同業者も地権者とのトラブルを起こしたこともなく、逆に地元住民から感謝を受けている。人間誰しも経済的な欲というのは強いものであるが、その経済的欲の渦巻く不動産業界にあってはこの男気が必要なのである。本件脱税が稚拙極まりなかったのも被告人石関の性格から来るところと思われる。どうか、裁判所におかれましては、この人に好かれる被告人石関の性格も充分判断して頂きたくお願い申し上げます。

一三 被告人石関の不動産業者としての実績について

1 原判決と前記第二の一の1のサのとおり「地域社会への貢献」を被告人石関及び被告人明和地所建設株式会社に有利な量刑の理由して認定しているが、原審の弁護活動からすると、やや不充分な認定であったことが否めない。原審弁論の要旨において詳細に主張しているので、その点をまず繰り返し主張する。

即ち、被告人石関は、昭和四五年に被告会社を創業以来、地元大宮市における不動産業者として、常に地元の発展、開発を念頭に置き、地元の人に愛され、地元の人の役に立つ仕事を進め、現在までに大宮市、浦和市、与野市、上尾市、北本市、樋川市などにおいて、建売り分譲住宅二、〇〇〇棟、注文住宅、仲介一、五〇〇棟を地元住民方々のために供給してきたほか、大手ディベロッパーである住友不動産及び大京観光株式会社と共同事業で合計二、〇〇〇棟の建物を分譲し、更に、大宮駅前西口地区開発にも奔走し、約一、〇〇〇坪の土地を取り纏めるなど地元大宮市並びにその周辺地区の発展に会社の全力を傾けてきた。

そして、その実績のため、被告会社である明和地所建設は、高崎線の沿線地区の業者としてはトップクラスの地位に昇り、地元での厚い信頼を得て、資金的には苦境を乗り越えながら社業は着々と伸び、創業二〇年を迎えるまでに至った。

この間、不動産業者にありがちな地元とのトラブルなど全くなく、建築下請業者及び協力業者は、株式会社イイノを始めとして多数あり、社員は家族まで入れると関係会社を含めて約二〇〇名、下請業者、協力業者の家族を含めると数百名に及ぶが、これらの多数の社員、家族の者達が、被告人石関の明るい面倒見の良い人柄を尊敬しているいわゆる明和地所建設グループとして地元のために尽くしてきたのであり、昭和五〇年代中ころには、大宮市南中丸で約二〇〇戸の建売り分譲をした際、被告会社は当時の時価で約三、〇〇〇万円もの中丸自治会館の建物を地元に寄贈し、これは現在地元で図書館として利用され、多数の子供他達に喜ばれ、地元から感謝されている。

被告人石関は、早くから社会に飛び込み、成り振りかまわず一心に働き、不動産業者としての経験も既に三〇年に及ぼうとするベテランであり、その判断の的確さと行動の素早さ、決断の良さは業界内でも定評があり、明和地所建設を今日まで築き上げた実力者である。

2 以上の被告人石関の実績があったから以下のとおりの嘆願書が寄せられた。

<1> 弁二六号証 被告明和地所建設株式会社の社員全員が同社の実績を被告人石関の努力であると感謝し嘆願をしている。

<2> 弁二七号証 取引業者の深山兼則が被告人石関の決断力に感心している。

<3> 弁二八号証 南中九自治会会長が、被告人石関が地元奉仕の精神を実際に実行していることに感心している。

<4> 弁二九号証 小島文子が是非自分の相続の時も被告人石関に頼みたいと嘆願している。

<5> 弁三〇号証 小島登志男の大手信託銀行が投げ出した相続の整理を被告人石関が解決し、感謝し、自らの人生の範としていること。

<6> 弁三一号証 同業者が被告人石関のことを地域に大変貢献していると嘆願している。

<7> 弁三二号証 元従業員が被告人石関と一生つき合いたいと嘆願している。

<8> 弁三三号証 土地家屋調査士が、被告人石関に仕事を盛り立てられたことに感謝している。

<9> 弁三四号証 同業者が、被告人石関が地域に貢献したのは周知の事実と述べている。

<10> 弁三五号証 同業者が、被告人石関の性格を温厚とほめている。

<11> 弁三六号証 被告人石関が同業者の後輩を指導してきたこと。

<12> 弁三七号証 同業者が、被告人石関のことを面倒見が良いとほめている。

<13> 弁三八号証 同業者が、被告人石関のことを温厚な性格で、責任感が強いとほめている。

<14> 弁三九号証 同業者が、被告人石関のことを誠実で温厚且つ紳士的と認めている。

<15> 弁四〇号証 右同。

更に、地域に貢献していることを認めている。

<16> 弁四一号証 下請が右同。

<17> 弁四二号証 下請業者が、被告人石関から指導を受けていること。

<18> 弁四三号証 同業者が、被告人石関のことを責任感があると述べている。

<19> 弁四四号証 高砂土地開発株式会社の社員全員が、被告人石関の指導力を評価している。

<20> 弁四五号証 下請業者が感謝していること。

<21> 弁四六号証 同業者が指導・援助を受けていること。

<22> 弁五四号証 司法書士が、被告人石関のことを温厚・誠実と認めている。

<23> 弁五五号証 下請業者が被告人石関から指導を受けている。

<24> 弁五六号証 設計事務所が被告人石関から指導を受けたこと。

<25> 弁五七号証 下請業者が被告人石関の世話になっていること。

<26> 弁五八号証 下請業者が被告人石関の温厚・誠実な性格・地域への貢献を認めていること。

<27> 弁五九号証 右同。

<28> 弁六〇号証 元社員が被告人石関に感謝していること。

<29> 弁六一号証 同業者が、被告人石関の実績を評価し、安い住宅提供のためになくてはならない人であると認めていること。

<30> 弁六二号証 同業者が親身に世話をしてもらったこと。

<31> 弁六三号証 同業者である友人が、被告人石関の業績・性格をほめていること。

<32> 弁六四号証 下請業者が、被告人石関に世話になっていること。

<33> 弁六五号証 下請業者が、被告人石関の性格・実績を評価していること。

原審においても十分精査されたと思いますが、今一度以上の数多くの嘆願書をご一読頂きたい。

これだけの数の嘆願書はやはり被告人石関の良い人柄・実績がなければ寄せられるものではなく、特にかつて取引のあった地権者<3><4><5>等から嘆願書が寄せられるのは驚きという他ない。一読して頂ければ、量刑の理由が「地域社会への貢献」との一言で終わるはずがないものと、弁護人としては確信しております。

一四 被告人恒川の性格・反省

1.原審判決は被告人恒川が深く反省していることを認定していない。しかし、被告人恒川は深く反省している。検事調書等で具体的に述べられないのは被告人恒川自身記憶が確かでないからに過ぎない。

2.被告人恒川は本当にお人良しである。人から頼まれると断わることのできない性格である。又、子煩悩である。孫を大変愛しかわいがっている。このお人好しの老人を周囲の人々も大変好いている。

被告人恒川は毎月自らの給料から一〇万円を寄付している。(弁七一・七二号証)

そして、多くの人から嘆願書が寄せられている。

弁 七三号証 息子恒川雅彦の嘆願書。

弁 七四号証 被告人恒川の人のよさをほめている。

弁 七五号証 被告人恒川のことを思いやりがあるとほめている。

弁 七六号証 被告人恒川が借金肩代わりとして救ったこと

弁 七七号証 息子恒川勉の嘆願書。

弁 七八号証 長女の嘆願書。

弁 七九号証 義姉の嘆願書。

子供三人を男手で育てた苦労

弁 八〇号証 被告人が長男の嫁の母に生活の援助をしてきたこと、大変やさしいこと

弁 八一号証 内妻が被告人恒川のことを親切で身を粉にして他人を救う性格と言っている。

弁 八二号証 右内妻の子が被告人恒川を父と思い、その父が人助けを一生懸命すること。

弁 八三号証 被告人恒川の心の広さをほめている。

弁 八四号証 内妻の父の嘆願書

弁 八五号証 友人が被告人恒川のことを誠実と評している。

弁 八六号証 友人が被告人恒川のことを努力すると評している。

弁 八七号証 友人が誠実と評している。

弁 八八号証 友人の嘆願書

弁 八九号証 被告人恒川のことを誠実と評している。

弁 九〇号証 被告人恒川のことを仕事振りの評判がよいこと。

弁 九一号証 被告人恒川のことを誠実と評している。

弁 九二号証 被告人恒川のことを誠実と評している。

弁 九三号証 仕事関係の嘆願書

弁 九四号証 被告人恒川のことを誠実と評している。

弁 九五号証 仕事仲間が被告人恒川の仕事に定評があると言っている。

弁 九六号証 友人の嘆願書

弁 九七号証 友人が入院費一切の援助を受け感謝していること。

被告人恒川は困っている人を見ると自分を犠牲にしてしまうこと。

弁 九八号証 友人が倒産時に精神的にも金銭的にも被告人恒川から助けられたこと。

被告人恒川の犠牲的精神を持っていること。

弁 九九号証 被告人恒川が面倒見がよいこと。

弁一〇〇号証 被告人恒川が親身になって相談にのってくれること。

弁一〇一号証 被告人恒川のことを面倒見がよいと評している。

弁一〇二号証 被告人恒川が地元でよく思われていること。

弁一〇三号証 被告人恒川が孫を大変かわいがっていること。

弁一〇四号証 仕事仲間が仕事が誠実と評されていること。

弁一〇五号証 仕事先が被告人恒川のことをまじめで慎重と評している。

弁一〇六号証 被告人恒川が何事にも相談にのること。

弁一〇七号証 友人が被告人恒川から助けられたこと。

被告人恒川が大変やさしい心を持っていること。

弁一〇八号証 被告人恒川がやさしいこと。

弁一〇九号証 友人が嘆願している。

弁一一〇号証 被告人恒川のことを面倒見がよいと評している。

弁一一一号証 被告人恒川が自分が苦しくても多くの人を助けたこと。

弁一一二号証 友人の嘆願書

弁一一三号証 株式会社茅部商事社員の嘆願書

裁判所におかれましても、これらの多くの嘆願書を一読して頂きたいと思います。被告人恒川がいかに困った人・弱い人・幼い子を助けているかがわかります。この人が困っているのを見て見ぬ振りの出来ない性格、人に頼まれると断れない性格が本件犯行に走らせたのかもしれませんが、是非ともこの被告人恒川の人柄を充分に斟酌して頂きたくお願い申し上げます。

一五 被告会社の税務申告体制

被告会社は、本件の脱税をきっかけに、山本千代松と縁を切り、これに代わって税務申告体制を強化するため、関東信越国税局出身の税理士二名を被告明和地所建設株式会社及び関係会社である株式会社和幸の税務担当顧問にそれぞれ就任してもらった。又、元国税不服審判所長の原審の弁護人鈴木弁護士にも被告明和地所建設株式会社の顧問に引き続き就任してもらい、二度と本件脱税の如き犯罪を犯し得ない体制を整えた。

原判決は、右の点に全く触れていないが、被告人石関及び被告明和地所建設株式会社が脱税の再犯のおそれが全くなくなり、善良な納税者となったことの認定を、被告明和地所建設株式会社及び被告人石関の有利な量刑理由として是非していだだきたくお願い申し上げます。

一六 贖罪金について

弁一二六号証のとおり、被告明和地所建設株式会社は、平成二年一二月一〇日、社会福祉法人埼玉県共同募金会に対し金三、〇〇〇万円を寄付した。これにより、どれ程多くの恵まれない方々が救われたか。

原判決は、右の点にも全く触れていないが、これは被告明和地所建設株式会社及び被告人石関にとって大変有利となる量刑理由である。裁判所におかれましては是非とも右の点を充分考慮して頂きたく、お願い申し上げます。

一七 判例について

全国的にみれば、巨額の脱税事件といわれる刑事事件でも執行猶予が付されている事件はしばしば見られる。例えば、脱税額が五億五、三六八万一〇〇円の所得税法違反に「被告人を懲役二年及び罰金一億円に処する。・・・・この裁判確定の日から三年間右執行刑の執行を猶予する」との温情判決(判例時報一二八二号一六九頁)もある。一般には法人税法違反の方がその企業規模が大きいため、所得税法違反に比べ脱税額が高額でも刑は軽い。したがって、原判決のように「実刑をもってその責任を果たさせるのが相当である」と断じ切ることは出来ないのである。裁判所におかれましては諸般の事情を十分考慮の上今一度再考して頂きたく、お願い申し上げます。

一八 本件保釈後の被告明和地所建設株式会社と被告人石関の経営活動並びに被告人石関の生活態度について

1.当然のことではあるが、被告人石関は本件保釈後一度も競馬をしていない。被告明和地所建設株式会社及び被告人石関はその所有する競争馬を売りに出しているが全く買い手がつかず困っている。

又、香港の預貯金は、被告人石関が香港へ渡航し、全額納税に当てる予定であり、又香港の六戸建連棟式賃貸住宅も既に売却が決定している。

現在、被告明和地所建設株式会社の役員・社員が必至になって働いており、被告人石関も必至になって働いている。

被告人石関は内妻平山の将来を心配し、実の兄の養子にしてもらった。

2.大宮市大字蓮沼字薊ケ谷一〇二五番地の土地について

被告明和地所建設株式会社は右の土地を昭和六二年七月一〇日取得したが、マンション建築の予定であり粗利益三五億円が見込まれたが、地元住民より公共施設の駐車場として大宮市に売却してほしい旨の懇願を受け、被告人石関及び被告明和地所建設株式会社は地域への貢献及び本件の反省を考えて大宮市に売却した。そのため巨額の利益を儲け損なったのである。

被告明和地所建設株式会社はここまで地元地域に貢献しており、同社の指揮を取る被告人石関の量刑におきましてはこの貢献を是非とも斟酌して頂きたいとお願い申し上げます。

尚、被告明和地所建設株式会社に対し、平成三年三月一八日、厚生大臣より前記第二の一六の贖罪金について感謝状が送られた。

一九 本件保釈後の被告人恒川の生活態度・仕事振り

被告人恒川は本件保釈後、競馬を一切やめた。その所有する二頭の馬は現在売りに出しているが買い手がつかないでいる。

被告人恒川は孫とよく遊び大変よいおじいちゃんであり、仕事も誠実に行っている。

被告人恒川は人の恩を決して忘れない性格である。原審の嘆願書を提出してくれた人、情状証人になってくれた人全員にお礼を述べに行った。このような誠実さを是非とも裁判所も評価して頂きたいとお願い申し上げます。

第三 結論

一 公訴事実については、追って補充書により正確に控訴趣意書を補充する陳述をする。

二 被告人石関建治につきましては<1>本件土手町及び宮町の物件の両茅部商事との取引では被告人恒川清に儲けさせるとの気持ちが強かったこと、すなわち本件脱税の意図・動機において充分斟酌すべき事情がある点<2>その他被告明和地所建設株式会社の納税状況や寄付金等々前記第一において主張した諸点を充分考慮して頂き、是非とも執行猶予付判決を賜りたくお願い申し上げます。

三 被告人恒川清につきましても<1>既に本件宮町の物件の株式会社茅部商事での取引については正規の取引であったとの思いが強い点、すなわち本件脱税の意図・動機において充分斟酌すべき事情がある点<2>その他暴力団に借金の取立をされていた点や十分に反省し善良な納税者になっている点等々前記第一において主張した諸点を充分考慮して頂き、是非とも執行猶予付判決を賜りたくお願い申し上げます。

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